🔐 個人事業・中小企業が保持する「狙われる情報」

個人事業主や中小企業経営者の中には「自社には狙われるような重要情報はない」と考える方が多いですが、実際には多くの情報資産がサイバー攻撃者の標的となっています。攻撃者は規模を問わず、金銭的価値や犯罪への利用価値がある情報を狙っています。

1. 顧客情報(個人情報)

  • 氏名、住所、電話番号、メールアドレス、生年月日
  • 健康、美容、教育、士業などの業種では、**センシティブ情報(機微情報)**も含まれる

📌 漏洩した場合:個人情報保護法違反 → 行政指導・損害賠償・信頼失墜
📌 攻撃者にとって:闇市場で売買、フィッシング詐欺やなりすましに活用


2. 取引先情報・請求情報

  • 法人の名前、連絡先、振込口座、取引金額
  • 見積書・請求書・納品書など

📌 攻撃者にとって:インボイス詐欺(偽の請求書送信)などの足がかり
📌 あなたにとって:取引先との信頼関係を崩壊させるリスク


3. 業務用のクラウドアカウント情報

  • メール、Dropbox、Google Drive、ChatWork、LINEなどのID/パスワード

📌 攻撃者にとって:乗っ取り・データ削除・スパム配信・請求情報改ざん
📌 あなたにとって:業務停止、信用喪失、回復までの時間と費用


4. 決済・金融情報

  • インターネットバンキングのID/暗証番号
  • クレジットカード情報
  • スクエア、PayPay、Stripeなどの決済アカウント

📌 攻撃者にとって:金銭的な直接被害を狙える最も価値の高い情報
📌 あなたにとって:不正引き出し/口座凍結の恐れ


5. 業務ノウハウ・営業戦略・見積基準

  • 提案資料・価格表・契約書・取引条件
  • メルマガ・LINE配信文などのマーケティング情報

📌 攻撃者にとって:競合他社への売却、転用
📌 あなたにとって:独自性の流出、営業優位性の喪失


6. 従業員・外注先の情報

  • 給与情報・マイナンバー・履歴書など

📌 漏洩すれば:法的責任・雇用関係の悪化につながる


主な標的となる情報

種類具体例・リスク
顧客情報氏名、住所、電話番号、メールアドレス、購入履歴、クレジットカード情報など。個人情報漏洩や詐欺被害に直結。
取引先情報取引先企業の連絡先、契約内容、取引実績、共同プロジェクト資料など。サプライチェーン攻撃や信用失墜の原因。
自社の資金情報ネットバンキングの法人口座、法人クレジットカード情報、資金繰りデータ。不正送金や資金流出のリスク。
従業員情報氏名、連絡先、給与、マイナンバー、家族情報など。個人情報保護法違反や従業員への被害につながる。
業務データ売上・仕入データ、価格設定、製品設計、ビジネス計画、製造プロセス、知的財産。競合他社への流出や事業継続への影響。
ITシステム情報サーバーやネットワークの設定情報、管理者アカウント情報。乗っ取りや踏み台攻撃のリスク。
預かり情報取引先や顧客から「取扱注意」として預かった機密情報。契約違反や損害賠償リスク。

なぜ狙われるのか

  • 中小企業や個人事業主は「大企業ほど守るべき情報がない」と思いがちですが、実際には顧客・取引先・自社の資金情報など、金銭的価値や犯罪利用価値の高い情報を日常的に扱っています。
  • また、セキュリティ対策が手薄な企業は、攻撃者にとって「侵入しやすい」「踏み台にしやすい」格好の標的です。
  • 取引先企業や顧客のシステムへの侵入経路(サプライチェーン攻撃)として利用されるケースも増加しています。

🚨 まとめ:サイバー攻撃者にとって魅力的なターゲットとは?

誤解されがち実際
自分は有名でもないから狙われない無名な中小事業者の方が対策が甘くて狙いやすい
大企業に比べて被害は小さい業務停止=致命的打撃になるのはむしろ中小規模
情報の価値はない金銭・信用・顧客との関係が情報そのもの

個人事業主・中小企業が標的となる情報は、顧客・取引先・自社の資金・従業員・業務・ITシステム・預かり情報など多岐にわたります。これらの情報は、事業規模に関係なくサイバー攻撃者にとって十分に価値があり、漏洩や改ざん、不正利用は企業の存続や信用に重大な影響を及ぼします。
「自社には重要な情報がない」と考えず、守るべき情報資産を正しく把握し、適切なセキュリティ対策を講じることが不可欠です。


以下に、個人事業主・中小企業が保持する重要情報の種類ごとに、実際に起きた国内外の事故例とそれに対する具体的な対策を一覧でまとめました。

🔐 重要情報の種類別|事故例と対策一覧

重要情報の種類実際の事故例(国内中心)主な被害対策(実行レベル別)
① 顧客情報(氏名・住所・電話・メールなど)美容院チェーンで顧客情報3万件が漏洩(従業員の私物PCがウイルス感染)顧客からの信頼喪失、業務縮小・業務端末と私物の分離・アンチウイルス導入・顧客リストの暗号化
② 請求・見積情報(企業間取引データ)中小製造業にて請求書を偽造され、取引先が誤って振込(なりすまし)数百万円の損害、信用喪失・送金前の電話確認・PDFにパスワード設定・メール送信ログの監視
③ クラウドアカウント情報(Google/LINE/Dropboxなど)学習塾でGoogle Driveのリンク誤共有により、全生徒の成績一覧が公開状態に信頼失墜、炎上・共有リンクのアクセス制限設定・ファイル権限の定期確認・多要素認証の導入
④ 金融情報(銀行ID/カード情報/決済アプリ)個人店舗がSquareアカウントを乗っ取られ、売上金30万円が引き出される直接的金銭損失・2段階認証必須化・メール経由のログイン確認・少額決済時にも通知設定
⑤ 営業戦略・価格表・提案資料建設業で営業資料が外注業者から漏洩、競合にコピーされ受注失敗営業損失・ブランド毀損・NDA契約の徹底・重要資料のウォーターマーク(透かし)・保管は自社サーバor暗号化
⑥ 従業員・外注先の個人情報(マイナンバー・履歴書)会計事務所で従業員がUSBを紛失し、個人情報が未暗号化状態で漏洩労務トラブル、社内不信・USBメモリの使用制限・持ち出し時の暗号化義務化・定期的な社内研修
⑦ SNS・ホームページ管理アカウント飲食店のInstagramが乗っ取られ、詐欺広告を投稿され炎上ブランドイメージ毀損・パスワード強化(長くて複雑)・SNS管理を1人に集中させない・Metaなどに即通報体制

🧩 ワンポイント補足:攻撃者の視点

  • 狙いは「盗む」より「止める・揺さぶる」へ
    → 近年は、業務妨害(DDoSやランサム)によって金銭を要求する手法が主流。
  • 「人のスキ」を突く攻撃が多い
    → クリック一発で感染、外注先経由で侵入、SMSで偽認証など。

✅ 総合的な初期対策チェックリスト(5項目)

  1. 重要情報を洗い出し・分類(何を守るべきか明確に)
  2. パスワードの一括見直し(Bitwardenなどで管理)
  3. 2段階認証の導入(Google/Microsoft/SNS含む)
  4. クラウドとデバイスのバックアップ体制の整備
  5. 月1回の簡易セキュリティ点検(IPAの無料診断など)

重要情報の種類ごとの実際の事故例と対策

個人事業主や中小企業が扱う「重要情報」は多岐にわたり、それぞれに具体的な事故例と有効な対策があります。下記に主な情報種別ごとにまとめます。


情報別の事故例と対策例

1. 顧客情報

事故例

  • 2021年、徳島県の半田病院がVPNの脆弱性を突かれてサイバー攻撃を受け、患者・顧客情報8.5万件が流出。システムも暗号化され、復旧に2億円以上の費用が発生した1
  • 2024年4月、生命保険会社で元社員が979人分の顧客情報(氏名、電話番号、住所など)を不正に持ち出し、転職先で営業活動に利用した。

対策例

  • VPNや社内ネットワークの脆弱性を定期的に点検・アップデートする。
  • 顧客情報へのアクセス権限を最小限にし、退職者や異動者の権限を即時剥奪する。
  • 持ち出し・印刷の制限、誓約書の取得、定期的な従業員教育を徹底する。

2. 取引先情報・預かり情報

事故例

  • 2020年、三菱電機が関連子会社のセキュリティの脆弱性を突かれてサプライチェーン攻撃を受け、企業機密や個人顧客情報が漏洩。
  • 取引先に委託していたサービスで、約10年間ユーザーの個人情報が外部から閲覧可能な状態になっていた(大手自動車メーカー事例)。

対策例

  • 委託先や取引先のセキュリティ体制を定期的に監査・評価し、必要に応じて改善を求める。
  • 機密情報の外部保存や共有には暗号化・アクセス制御を徹底する。
  • 取引先と同一レベルのセキュリティ方針を策定し、連携して対策する。

3. 従業員情報

事故例

  • 2023年、自動車部品メーカーで外部からの不正アクセスにより、従業員・元従業員の個人情報約1,000件が流出。
  • 2024年、病院の看護師が患者27名分の個人情報を含む書類を外部で紛失。

対策例

  • 個人情報を保存する媒体(USB、書類等)は原則持ち出し禁止とし、やむを得ず持ち出す場合は暗号化や厳重な管理を徹底する。
  • アクセスログの監視、権限管理、退職者のアカウント即時停止。
  • 従業員教育と情報管理体制の強化。

4. 業務データ・機密情報

事故例

  • ソフトバンク元社員が5G関連の機密情報を不正に持ち出し、転職先へ漏洩させた事件。
  • 通信会社の退職者が新サービス情報を持ち出し、ライバル会社に転職(手土産転職)。

対策例

  • 重要データの持ち出しや印刷を制限し、持ち出しの際は上長承認を必須とする。
  • 退職予定者のアクセス権限を早期に停止し、利用ログを監視する。
  • 社内規定や誓約書による内部不正の抑止。

5. ITシステム情報・管理者アカウント

事故例

  • 役員のパソコンがウイルス感染し、保存されていたメールが勝手に大量発信され、自社・取引先の情報が漏洩(栃木県/製造業)。
  • メール添付ファイルを不用意に開き、ウイルス感染で基幹システムの設定が書き換えられ、1週間業務停止(静岡県/製造業)。

対策例

  • ウイルス対策ソフトの導入と定期的なアップデート、全端末への適用。
  • システム・ソフトウェアの最新化、脆弱性対策。
  • パスワードの複雑化と定期変更、管理者アカウントの厳格な管理。
  • 不審なメール・添付ファイルを開かない教育と運用ルールの徹底。

まとめ

どの情報種別も、事故が発生すれば多大な損失や信用失墜につながります。
「自分たちには重要な情報はない」と思わず、日常的な管理・教育・技術的対策を組み合わせて守ることが不可欠です。